投資における最大の敵は、相場の変動ではなく、自分自身の「感情」です。特に、数年に一度訪れる大規模な暴落局面において、あらかじめ決めたルール通りに動ける投資家はごくわずかです。
「もっと下がるかもしれない」という恐怖や、「今すぐ売らなければ」という焦燥感は、人間の生存本能に深く根ざしたもの。これを精神論で克服するのは困難です。ならば、判断を人が行わず、システムに委ねるのがエンジニアリング的かつ合理的なアプローチです。
本記事では、Google Apps Script(GAS)を活用し、市場の暴落を検知して客観的な売買アラートを送るシステムの構築方法と、その背後にある論理的な売買戦略について徹底解説します。
【ご注意事項】
本記事の内容は、一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の投資商品への勧誘や将来の運用成果を保証するものではありません。投資には価格変動リスクがあり、元本を割り込む可能性があります。最終的な投資決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけるようお願いいたします。
なぜ「自動アラート」が投資成績を劇的に向上させるのか

多くの投資家が「安く買って高く売る」ことを目標に掲げますが、現実はその逆になりがちです。相場が過熱している時に飛びつき、暴落の底で耐えきれずに投げ出す。この「感情のバグ」を修正するパッチこそが、自動通知システムです。
感情バイアスの排除
行動経済学における「プロスペクト理論」によれば、人間は利益を得る喜びよりも、損失を被る痛みを2倍以上強く感じるとされています。
この心理的特性により、暴落時には合理的な判断能力が著しく低下します。システムが客観的な数値に基づいて「今が買い増しのチャンスである」と通知を出すことで、本能に逆らう投資行動を強力にサポートします。
24時間の市場監視
個人の投資家が24時間、米国市場や世界情勢を監視し続けるのは不可能です。GASを利用すれば、Googleのクラウド上でプログラムが常時待機し、あらかじめ定義した「暴落のトリガー」を1分1秒逃さずチェックし続けます。
システムに組み込むべき「3つのトリガー」
「なんとなく下がった」という感覚的な判断を排除するため、システムには定量的な指標を組み込みます。以下の3つのパラメータを組み合わせることで、ノイズを除去した精度の高いアラートを実現します。
① インデックスの乖離率(ボトムアップ・トリガー)
移動平均線からの乖離率を監視します。例えば、S&P500やNASDAQ100などの主要指数が、200日移動平均線からマイナス何%乖離したかを算出します。
- 設定例:200日移動平均線比 -10% で「警戒」、-20% で「買い増し検討」。
② VIX指数(恐怖指数)の急騰
市場の不安心理を映し出すVIX指数が一定水準を超えた場合、それはパニック売りのサインです。
- 設定例:VIX > 30 で通知、VIX > 40 は歴史的な絶好の買い場である可能性が高いと判断。
③ 騰落レシオ(オーバーソールド・トリガー)
市場全体の「買われすぎ・売られすぎ」を判断する指標です。25日騰落レシオが70以下になった場合、市場は総悲観の状態にあり、反発が近いことを示唆します。
GASによる「暴落検知・通知システム」のアーキテクチャ
Google Apps Script(GAS)は、Googleスプレッドシートと連携し、外部APIを叩くことができるため、投資インフラの構築に最適です。
システムの構成図
- データ取得層:GOOGLEFINANCE 関数または外部API(Alpha Vantage等)を用いて、主要指数の終値を取得。
- ロジック層:GAS内で「乖離率」や「VIXの閾値」を判定するアルゴリズムを実行。
- 通知層:LINE NotifyやSlack API、あるいはGmailを用いて、ユーザーのスマートフォンへ即座にアラートを送信。
実装のヒント:株価取得のコードロジック
GASで株価を取得し、判定を行う際の基本的なロジックは以下の通りです(※簡略化したイメージ)。
- スプレッドシートの特定セルに現在の指数価格を書き出す。
- GASの関数がその値を読み取り、前日比や平均値と比較。
- 条件に合致すれば、UrlFetchAppを利用してLINE等にメッセージをPOSTする。
この仕組みを「時間主導型トリガー」で1時間おき、あるいは市場開始直後に実行するように設定すれば、あなたは一切チャートを見る必要がなくなります。
暴落通知を受け取った後の「リバランス」アルゴリズム
アラートが鳴った後、具体的にどう動くかまでをルール化(システム化)しておくことが重要です。
資産配分の自動修正(リバランス)
例えば、株式と債券の比率を50:50で保有している場合、株が20%暴落すると比率は約44:56に崩れます。この時、アラートをトリガーとして、「増えすぎた債券を売り、安くなった株式を買う」というリバランスを機械的に実行します。
| 資産クラス | 暴落前(50:50) | 暴落後(放置) | リバランス実行後 |
| 株式 | 500万円 | 400万円 | 450万円 |
| 債券 | 500万円 | 500万円 | 450万円 |
| 合計 | 1,000万円 | 900万円 | 900万円 |
リバランスにより、安値で株式を仕込む「ドルコスト平均法」の強化版を自動的に実践することになり、相場回復時の反発力を最大化できます。
運用の精度を高める施策
エラーハンドリングと偽陽性の排除
システム運用で最も避けたいのは、データの欠損による「誤通知」です。
- 対策:過去3日間の平均値との比較チェックや、複数のデータソースからのクロスバリデーション(相互検証)をコード内に組み込みます。
暴落アラートを「買い」だけでなく「守り」に使う
暴落を検知した際、新規の買い増しを行うだけでなく、「逆指値(ストップロス)」の基準を引き上げたり、キャッシュ比率(現金比率)を一時的に高めたりする判断材料としても活用可能です。
システムがもたらすのは「富」ではなく「心の平穏」

暴落時にアラートを鳴らすシステムの最大の価値は、実はリターン向上そのものではありません。「相場を監視しなくていい」という自由と、「暴落が来ても対処法が決まっている」という精神的な安定感にあります。
- 市場のパニックに巻き込まれない「客観的な指標」を定義する。
- GASという「執事」に監視を任せる。
- 通知が来たら、淡々と「あらかじめ決めたルール」を執行する。
エンジニアリング的な思考を資産運用に持ち込むことで、投資は「ギャンブル」から「再現性のあるプロセス」へと進化します。今すぐスプレッドシートを開き、あなただけの「暴落検知エンジン」の設計を開始しましょう。

