病気やケガで突然働けなくなったときの生活費を補う「就業不能保険」。CMやネットで見かけて気になりつつも、「会社員なら傷病手当金が出るから不要」「いや、手取りが激減するから入るべき」と真逆の意見を目にして迷っていませんか。
結論から申し上げますと、公的保障の仕組みと勤務先の福利厚生を正しく把握しないまま就業不能保険に加入すると、月々の保険料を重複して払い続ける「過剰防衛」に陥るか、いざというときに給付金が1円も出ない「契約のミスマッチ」に直面します。
本記事の内容は2026年09月時点の公開情報・法令・規約に基づき検証しています。なお、将来の生活防衛や予備資金の運用にあたっては、元本割れ等のリスクを伴うため、最終的な判断や商品の選択はご自身のライフプランやリスク許容度に合わせて自己責任で行ってください。投資や資産運用を行った結果に伴う責任の一切は負いかねます。
1. 傷病手当金の基本ルールと「手取りダウン」の現実
会社員や公務員などの被用者保険(健康保険・共済組合)に加入している方には、業務外の病気やケガで働けなくなった際の強力な公的セーフティネットとして「傷病手当金」が用意されています。まずはその給付水準を客観的に確認しましょう。
傷病手当金は、被保険者が病気やケガのために働くことができず、会社を休んだ日が連続して3日間あったうえで、4日目以降の休んだ日に対して支給されます。支給される金額は、支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2です。
出典:全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金について」
支給期間は、支給開始日から「通算して1年6か月」です。一時的に体調が回復して復職した期間があっても、同一の病気やケガで再休業した場合は、実際に支給を受けた日数のみがカウントされます。
ここで多くの人が「額面の3分の2が出るなら、支出を少し切り詰めれば民間保険はいらない」と判断してしまいます。しかし、ここには見落としがちな実務上の落とし穴があります。
休職中も「社会保険料」と「前年住民税」は免除されない
傷病手当金自体は非課税所得のため、所得税や復興特別所得税は引かれません。しかし、会社に在籍して休職している間、健康保険料・厚生年金保険料(社会保険料)の免除制度はありません。毎月、本人負担分の保険料を会社へ振り込む必要があります。
さらに、前年の所得に応じて課税される住民税の支払いもそのまま継続します。額面の3分の2が支給されても、そこから満額の固定控除が引かれるため、実際の手取り額は「休職前の手取りの55%〜65%程度」まで落ち込みます。住宅ローンや教育費など固定費が大きい世帯では、毎月数万〜十数万円のキャッシュフロー不足が確実に発生するのです。
一方、国民健康保険に加入している自営業やフリーランスの方には、原則として傷病手当金の制度がありません。初日から公的休業補償が「ゼロ」になるため、会社員とは根本的にリスク構造が異なります。
2. 【収支シミュレーション】休職時のリアルな家計ギャップ
では、実際に休職した際に手元資金がどれくらい目減りするのか、具体的なモデル世帯で検証してみましょう。以下の表は、月収(標準報酬月額)35万円、平時の手取り約28万円の会社員が休職した場合の試算です。
| 期間・ステータス | 公的給付(月額換算) | 継続する天引き・固定負担 | 実質手取り額 | 平時との差額(不足額) |
|---|---|---|---|---|
| 平時(就業中) | 給与:350,000円 | 社会保険料・税金:約70,000円 | 約280,000円 | 0円(基準) |
| 休職〜1年6か月(傷病手当金) | 傷病手当金:約233,330円(非課税) | 社会保険料・住民税:約65,000円(自己負担) | 約168,330円 | ▲ 約111,670円 |
| 1年6か月超(退職・障害厚生年金2級想定) | 障害厚生年金+基礎年金:約140,000円〜180,000円(配偶者加算等含む) | 国保・国民年金(免除申請考慮):約15,000円〜30,000円 | 約125,000円〜150,000円 | ▲ 約130,000円〜155,000円 |
※上記は2026年9月現在の制度に基づき、標準的な扶養親族なし(単身または共働き)を想定した概算試算です。個別の税額や保険料負担は、お住まいの自治体や加入保険者によって異なります。個別の税務判断は所轄税務署や税理士等の専門家にご相談ください。
この表から分かる通り、会社員であっても傷病手当金受給中は「月約11万円のマイナス」が発生します。さらに恐ろしいのは、1年6か月が経過して傷病手当金が打ち切られる「1年6か月の崖」です。
体調が戻らず退職せざるを得なくなった場合、要件を満たせば公的障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)を受給できますが、審査基準は厳しく、支給水準も傷病手当金よりさらに下がることが一般的です。公的年金の構造については以下の記事でも詳しく整理しています。
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