1年間に支払った医療費や医薬品代の負担を軽減する所得控除には、「通常の医療費控除」と「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」の2つの制度が存在します。これらは併用できず、どちらか一方を選択して確定申告を行う必要があります。
本記事の内容は2026年09月時点の公開情報・法令・規約に基づき検証しています。なお、個別の具体的な税額計算や申告書の記載指導については、所轄税務署や税理士等の専門家へご相談ください。また、資産運用や家計の見直しを行う際は元本割れ等のリスクを伴う場合があるため、最終的な判断はご自身のライフプランやリスク許容度に合わせて自己責任で行ってください。
通常の医療費控除とセルフメディケーション税制の制度比較
2つの制度は、根拠法令や足切り額(適用下限額)、控除限度額が根本から異なります。まずは基本スペックを客観的に比較整理します。
| 項目 | 通常の医療費控除 | セルフメディケーション税制 |
|---|---|---|
| 根拠法令 | 所得税法第73条 | 租税特別措置法第41条の17 |
| 適用関係 | 選択制(併用不可) | 選択制(併用不可) |
| 足切り額(適用下限) | 年間10万円(総所得200万円未満は総所得の5%) | 年間1万2,000円 |
| 控除限度額 | 最高200万円 | 最高8万8,000円(購入額10万円で上限) |
| 対象費用 | 診療費、治療費、入院費、処方薬代、治療用市販薬、通院交通費など | 厚生労働省指定の「特定一般用医薬品等(スイッチOTC医薬品等)」 |
| 申告者の要件 | 特になし(生計を一にする家族分を合算可能) | 健康維持・疾病予防の「一定の取組」を行っていること(家族分合算可能) |
現行法上、セルフメディケーション税制は2026年(令和8年)12月31日までの時限措置として運用されています。医療費適正化の推進に伴い、次期税制改正ではスイッチOTC医薬品の恒久化議論も進められていますが、現行ルールでは期限と要件を正確に把握しておく必要があります。なお、「一定の取組(健康診断や予防接種など)」に関する証明書類は、申告書への添付・提示は不要とされていますが、自宅での保管が推奨されています。
どちらが得か?控除額の損益分岐点シミュレーション
どちらの制度を選択すべきかは、年間の通院費用と対象市販薬の購入額によって機械的に決まります。市販薬の購入費は「通常の医療費控除」の対象にも含めることができる点が重要な判断ポイントです。
各制度の控除額の算出式は以下の通りです。
- 通常の医療費控除額 =(病院等の診療費 + 対象医薬品を含む治療用市販薬代)- 10万円(※所得200万円以上の世帯)
- セルフメディケーション税制控除額 = 対象OTC医薬品購入額 - 1万2,000円(最大8.8万円)
以下のシミュレーション表で、パターンごとの有利不利を確認してみましょう。
| ケース | 病院等の診療費 | 対象OTC医薬品代 | 通常控除の控除額 | セルフ税制の控除額 | 判定結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| ケースA(通院多め) | 150,000円 | 20,000円 | 70,000円 | 8,000円 | 通常の医療費控除が有利 |
| ケースB(薬局購入中心) | 30,000円 | 50,000円 | 0円(足切り未満) | 38,000円 | セルフメディケーション税制が有利 |
| ケースC(境界域) | 80,000円 | 40,000円 | 20,000円 | 28,000円 | セルフメディケーション税制が有利 |
| ケースD(高額治療あり) | 500,000円 | 15,000円 | 415,000円 | 3,000円 | 通常の医療費控除が圧倒的有利 |
ケースCのように、合算した総医療費が10万円を超える場合でも、セルフ税制の控除額のほうが大きくなるケースが存在します。年末の段階で必ず両方の式に当てはめて試算することが不可欠です。
やってはいけない「アンチパターン」
制度選択と手続きにあたり、陥りがちな失敗パターンをまとめました。
1. 所得が最も低い家族の名義で申告してしまう
医療費控除は生計を一にする配偶者や親族の分をまとめて申告できます。所得控除は「課税所得 × 税率」で還付額が決まるため、世帯内で最も課税所得(限界税率)が高い人物が申告しなければ、世帯全体での手残り額が大幅に減少します。
2. 健康食品や医薬部外品をOTC医薬品と誤認して集計する
ドラッグストアで購入したビタミン剤や目薬の中には、「医薬部外品」や「健康食品」に分類されるものが多数あります。これらはセルフメディケーション税制の対象外です。レシートに記載された識別マーク(★印など)を確認せず合算すると、税務署からの指摘原因となります。
3. マイナポータル連携に過信して市販薬レシートを破棄する
健康保険適用の診療費や調剤薬局の費用はマイナポータル連携で自動取得できますが、ドラッグストアで購入した市販薬データは自動連携されません。市販薬のレシートを破棄してしまうと、セルフ税制の適用も通常控除への合算もできなくなります。
対象医薬品の見分け方とレシート5年保存ルール
対象医薬品の判別は、レシートと商品パッケージの2段階で確認します。
購入した医薬品のレシートには、セルフメディケーション税制の対象品目である旨を示す印字(商品名の横の星印など)と、対象商品のみの合計額が記載されています。出典:厚生労働省 セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について
パッケージに「セルフメディケーション 控除対象」の共通識別マークが表示されている商品に加え、マークがなくても厚生労働省の対象品目一覧(JANコード照合)に該当していれば控除の対象となります。
レシートの保存期間と感熱紙の劣化対策
確定申告時にレシート原本を提出する必要はありません。作成した「明細書」のみを提出します。ただし、税務署からの提示・提出要求に備え、確定申告期限の翌日から「5年間」の自宅等での保管が義務付けられています。
市販薬の感熱紙レシートは、時間の経過とともに印字が消えて読めなくなるリスクがあります。購入後速やかにスマートフォンのスキャンアプリ等でデジタル保管しておくか、日の当たらないファイルに収納して保管してください。
迷わず控除を受けるための3ステップ・アクションプラン
確定申告期に慌てず、最も有利な選択をするための具体的な実行手順は以下の通りです。
- 領収書の月別仕分け:病院・薬局の領収書と、ドラッグストアのOTC医薬品レシートを別々のクリアファイルに月単位で保管する。
- 年明けのマイナポータル確認と試算:1月下旬以降にマイナポータルで前年分の医療費通知情報を確認し、手元のOTC医薬品レシート合計額と合算して両制度の控除額を比較する。
- 最も所得の高い人が申告:控除額が大きい制度を選定し、世帯内で課税所得が最も高い人物を申告者としてe-Taxで確定申告書を作成・送信する。
日頃のレシート仕分けを仕組み化しておくだけで、確定申告時の計算負担を最小限に抑えつつ、家計の支出を確実に最適化できます。

